ROTTEN

「な?おまえもそう思うだろ、スパッド。ヘロインをやってるときは、それだけですむよな。この前、軍に戻る契約書にサインしたんだぜ。あの馬鹿、ベルファストに行くらしい。兄貴の頭がどうかしてるってのは前から知ってたよ。帝国主義の下僕だ。けどな、兄貴が俺に向かって何て言ったか聞きたいか?こうだぜ。‘‘俺は民間人になんかなれそうにねえよ。‘‘とだ。それに自分が打つ方の立場だしな」

「レンツ、それってちょっと強引すぎる理屈って気がするけど」

「いいから聞けって。考えてみろ。軍にいれば、軍が何でもやってくれる。食い物の心配はいらない。基地にあるしけたクラブで酒だって安く飲める。ほら、兵隊が基地の外で飲んで暴れたりして、軍の評判が下がったり、近所の住人を怒らせたりしたらまずいからな。ところが除隊になった途端、何から何まで自分でやらなくちゃならなくなる」

「そうだね、でもさ、やっぱりちょっと違うよ、だって・・・・・・」

「ああ、ああ・・・ちょっと待てって。聞けよ、最後まで言わせてくれ・・・どこまで話したっけ?・・・・・・そうだ!いいか。ヘロインをやってると、ヘロインを手に入れることだけ心配してればいい。ところが、ヘロインをやめると山ほど心配ができる。金がなくちゃ酒も飲めねえ。かといって金がありゃ飲みすぎる。女がいなけりゃやるチャンスもねえ、いたらいたであれこれ干渉されまくる。それでも我慢するか、爆発しちまって後悔するかだ。請求書や食べるモノの心配もあるし、税金の心配もしなくちゃならなかったり、セルティック・サポーターのネオナチどもにぶちのめされないように用心したり。どれもこれも、ヘロインをやってるときはどうでもよかったことばっかだぜ。一つのことだけ心配してればいいんだ。人生は単純そのものになる。な、納得したろ?」

「まあね。でも、それも悲惨な人生だよね。生きてるって言えないよ、そんなの。だって禁断症状がくると・・・あれは最低中の最低だろ・・・全身の骨がぎしぎしいったり・・・毒なんだよ。単なる毒・・・だからそんなこと言わないでよ、またあんな生活に戻りたいなんてさ。どうせ出任せで言ってるんだろうし」

「そうだな。くだらねえことをついしゃべりすぎた。ほら、セックス・ピストルズがかかったぜ」